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それいゆ シラー 2022年のきろく

 それいゆ シラー 2022年のきろく

”自社畑クロニクル最終章、旭洋酒のヴァラエタルシリーズ「きろく」 ”

栽培醸造家のオーナー夫婦が小規模だからこそできる隅々まで目の行き届いた丁寧な葡萄栽培と醸造に徹し、風土の良さを表現した家族経営の小さなワイナリー旭洋酒の限定品、自社畑で栽培法からこだわり、この土地ならではの美味しさを追求した自社畑のヴァラエタルシリーズ「きろく」のシラーです。

多品種をブレンドするアッサンブラージュに比べて、その年の特徴が顕になるモノ・セパージュ。そのシリーズ名を「きろく」としたのは、もはや高品質を競って何らかの記録"record"を目指さない事を表明するためでもあります。

温暖化対策のため、標高500mの自社畑(山梨市八幡地区)で、2008年より一文字短梢棚式で栽培しているシラー。ピノ・ノワールほど密着粒ではありませんが果皮が薄く、収穫前の降雨で割れやすいデリケートな品種です。近年、品種香の一つである「胡椒の香」が、多雨の日本で作られたワインにより多く含まれる事が判り注目されています。

2022年は6月中に一旦梅雨が明け、その後1週間以上6月としては(当時としては)記録的な猛暑日が続きましが、その後二回目の梅雨に突入。結局、その後も収穫期まで雨が多い年で、全体として低糖高酸度の年となりました。

シラーは、お盆に強雨が10日以上続いた前年程ではありませんが、やはり収穫2週間前から裂果が始まり、醗酵や風味に悪影響を与える晩腐病も増えて来たため、理想の糖度になる手前での収穫を決断しました。

醸造では他の欧州種と同様、除梗機で千切れた梗を手作業で取り除きますが、シラーは全ての品種の中で最も梗が細く千切れやすい為、より集中力を要します。醗酵には培養酵母を用いていますが、マロラクティック醗酵は自然誘発により、この年は特に高めだった酸が刺激の少ない乳酸に変わっています。

トゲのある深紅の薔薇、濡れた木の皮など、トップは少し籠った妖艶な香。時間と共にスミレの砂糖漬けや白胡椒、フレッシュプラムなどの香が開いてきます。

口に含むと若々しい酸味を伴うマルベリー様の果実味が、軽やかなタンニンに乗って広がります。鼻孔から抜ける胡椒様のスパイス感が味わいに陽気なリズムを与えています。

黒オリーブや生ハム、スペイン風オムレツなどのタパス、ブルスケッタやラタトゥイユ、カジキの南欧風ソテー、シェーブルチーズ等と。

■葡萄品種:シラー93%、メルロー7%
■産地/畑:山梨市八幡地区、岩手地区自社畑
■貯蔵/熟成:フレンチオーク樽で9か月熟成(新樽不使用)
■タイプ:ミディアムボディー
■アルコール度:12%

■納期:通常1〜3日
■生産本数:662本
■保存:冷暗所
■配送:普通便
■化粧箱:無し

NO.3-8-62  720ml 税込 3,630円  



【 きろくシリーズコンセプト 】
植え付けから古い樹で20年以上の歳月を経た自社畑の欧州種。その年もっとも良く熟した房のみを選別して収穫・醸造し、これまで平仮名の「それいゆ」シリーズとしてリリースしてきました。世界の銘醸地に比べて温暖湿潤な日本の山梨で、世界共通品種でどこまでのものが作れるのか。日本の山梨の、私たちならではの味わいとはどんなものなのか。それを知りたくて私たちは樹を植えました。

それから20年。幾度かの当たり年を経験する事ができたことはとても幸せでしたが、温暖化の影響は当初の想像をはるかに超え、この20年で豪雨や長雨の被害、高温化によるブドウの着色障害などが顕著となりました。質量ともに安定した地域を産地と呼ぶとすれば、それは確実に、標高と緯度の高い地域に移っています。

現在自社畑では温暖化に対応しいくつかの別品種の栽培をスタートしています。これらの品種をブレンドして質・量ともにバランスのとれたワインを生産する事は理にかなっています。

しかし一方で、気候条件に恵まれさえすれば良いワインが作れるのか、そもそも良さとはどういうことなのかと、折に触れて考えるようになりました。そして、良さというものが喜びや幸福に関係づけて語られるのであれば、それはそのものの中に存在するのではなく、そのものを通じて開かれる喜び、生の肯定、感謝の気持ちに他ならないと考えるようになりました。それは追い求めて勝ち取るようなものではなく、与えられた環境や変化をまず受け入れることによって開かれる地平ではないかと。

そこで自社畑では、品質の良さで記録を目指すのではなく、この加速する温暖化の中で、一年ごとのワインの営みを忠実に記録していくことを、これからの20年のワインづくりの目的とする事にしました。

もしも死の直前に、走馬灯のように過去の思い出が蘇るとしたら、それは、雨上がりのブドウの葉が陽に照らされて輝く光景、美味しそうに葉を食べるイモムシ、忙しく動き回るテントウムシ、そして一緒に収穫した仲間たちや、訪れてくれた人たちの笑顔がちりばめられた映像であろうと思います。

一つ一つは何でもないシーンでも、辛く苦しい痛みの記憶の上にそっと積み重ねられていく色のように、生きる喜びを補給してくれた風景。それらを写し取るように、毎年のワインを記録していきたいと思います。

エチケットデザインを依頼した版画家の雨宮千鶴さんが、コロナ禍で一日一枚製作した小さな作品群「日々の形跡」"Daily Traces"。まさにそのような姿勢で、過酷な状況下で実ったその年年のブドウと、それと共に生きた私たち自身の、最後の年次記録"chronicle"として、このシリーズを可能な限り続けていきます。


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